辻村深月「冷たい校舎の時は止まる」
31回のメフィスト賞受賞作。辻村深月の辻は綾辻行人の辻。深月は「霧越邸」に登場する“深月”から貰ったそうな。
出だしはホラー、最後はミステリで終わる、青春小説。今は夏だけど、雪の冷たさが痛いほど感じられました。登場人物一人ひとりの考え方とか心の揺れ動きが、本当に丁寧に描写されていて、自然と引き込まれます。
読み易さもポイントで、2段組の3分冊(ノベルス版)ですけど、読むのは全く苦になりませんでした。長すぎず、短すぎず。むしろ、この作品に相応しい厚さだと思います。
そして忘れてはいけないのが、メフィスト賞が総合エンタメ作品のための賞であり、かつ本格ミステリのための賞でもあること。この胸に残った、傷の痛みと、爽やかな後味と、そして気持ちの良い悔しさが、メフィスト賞受賞作であることの何よりの証拠。これぞメフィストという作品でした。
そして、あろうことか自分は、完全にメフィスト作品だって事を忘れて読んでいました。油断してしまったんです。本当に悔しい。してやられた。気を許したところを、こう、ばっさりと。完全に、辻村深月という「ホスト」の掌の上でした。
良い読書でした。
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