森博嗣・土屋賢二「人間は考えるFになる」

哲学科教授の土屋賢二と、工学科助教森博嗣の対談。巻末には2人が書いた短編小説も載っています。ミステリじゃないので、感想書くのにネタバレの心配しなくて楽です。
基本的に、森博嗣が語って、土屋さんが合いの手を入れるか茶化す、と言う形で対談が進む感じです。対談は(場所の移動からして)4回に分けて行われたらしくて、序盤は探り探りのキャッチボールだったのが、中盤からは空気も和やかになっていきます。
たまに土屋さんが「〜なことってないですよね」みたいに反語的に会話を進めようとするんですが、すかさず森が「こういうことがありますよ」と流れをばっさり堰き止める場面が幾度かあって、いちいち面白かった。
それから、森博嗣が執筆を「面白い」と言ったのを、初めて聞きました。デビュー前に書いた作品(「F」から「封印再度」まで)は、趣味として書いたものだったので、楽しんで書いたとのこと。その後は、いろいろな場面で森が何度も口にしているとおり、完全にビジネスとして割り切って書いているそうです。少なくとも、森博嗣が楽しんで書いた小説というのが存在する、という事実が、ファンの耳には嬉しかったりします。
「理想の大学教授像はトトロに出てくるお父さん」という発言が興味深い。そういえばサツキとメイのお父さんは研究職だったなあ、と思い出しつつ、森博嗣ってトトロ見てたんだ、という驚き。年に数本しか映画は見ない、と(確か)公言していたはずなのですが、その数本のうちにトトロが含まれていたなんて。大衆作品は見ない、硬派なイメージがやっぱりあるので、軽く親近感を覚えました。
巻末の読み切り小説は、両方ともそれなりに面白い作品でした。土屋さんのほうは、対談中で森にミステリを書く秘訣をレクチャーしてもらってたので、「それっぽい」作品になってます。ミステリか?と問いたくなる内容だけど、タイトルが「消えたボールペンの謎」とそれっぽいし、土屋さんの自虐ネタが笑えるので、許せてしまいます。森博嗣のほうは、ああ、やってくれたなという、いつも通りな感じ。思わず2回読んでしまいました。

この本もブクオフで買ったんですが、たぶん新品で買ったら特典として付いてくるであろう、可愛いしおりもちゃんと挟まっていたので、ラッキーでした。

人間は考えるFになる (講談社文庫)

人間は考えるFになる (講談社文庫)